ところで、漫画は著しい進歩をとげて──と書きたいところだが、 残念ながらそうは思えない。しいていえばぼくが戦後漫画の開拓を したあとは千篇一律のごとく、ぼくの手法の踏襲でしかなかったと 思う。漫画ブームが何回か来、漫画世代が育ったが、漫画は劇画や アンチ漫画と称するものを含め、ほとんど新しい改革はなされてい ないのである。 もし漫画に新革命の火の手が上がっていれば古株のぼくなどとっ くに引退していただろうが、いまだに注文が相次ぎ、月産数百ペー ジを書きとばし読者も支持してくれているとなると、うれしいがい ささかさみしい気もする。いったい三十年間漫画家はなにをしてき たのだろうか。 武内つなよし、堀江卓、桑田次郎、田中正雄、高野よしてる、白 土三平、つげ義春、森田拳次……その他もろもろの売れっ子たちが 第一線から消え、あるいは引退し、マスコミから忘れられて行った。 そして今、書きまくっている新しい作家たちもいずれそうなる運命 だろう。それが所詮マスコミ文化の宿命であろう。だが、それは漫 画にとって悲劇だ。も一度漫画に新しい息吹きを吹き込まねばなら ない。そして、それのできるのはぼくしかないと思っている。(略) ぼくは、戦後に創り出した手法は必ずヒットするだろうという自 信があったし、おそらく漫画の主流を占めるだろうと予想していた。 ぼくの手法を踏襲する投書家がきわめて多かったからである。